リコッタは「二度煮る」という語源通り、チーズづくりが終わった後に残ったホエー(乳清)に乳や生クリームを加えて火にかけ、上に浮いた塊を網じゃくしですくって籠に入れてつくられます。南イタリアが本場で、伝統的なのは羊乳製ですが、流通している大半は牛乳製です。新鮮であればある程ふんわりと甘く美味しい本場の味は、現地でなければなかなか味わうことはできません。 ミラノを州都とするロンバルディア州は、ポー川流域に農業地帯が広がり、大手企業も多く、イタリア20州のチーズ生産量の約50%を占めています。DOPのチーズは国内産の原料乳を使うことが義務付けられますが、牛乳製のモッツァレッラやリコッタなど、人気のチーズの原料乳は国外からの輸入に頼っているのが現状なのです。かれこれ20年近くなりますが、良心的な価格でかつ本当に美味しいリコッタを探していました。そんな私にアリゴーニ社社長のアルバーロが案内くださったのが、地元で人気のフレッシュチーズを製造するチーニョ社でした。近隣の農家から集荷した乳を原料として生産し、地元のピッツェリアやチーズショップに販売する4代目社長、テツィアーノ・オッ ジオンニ氏は、日本での販売をとても喜んでくれました。5年前に再訪すると売上を順調に伸ばし工場も拡張されていましたが、懐かしい社長が快く迎えてくださいました。売上の8割を占めるモッツァレッラ製造は機械化されてい ますが、リコッタづくりは現在でも人手を要する作業です。ホエーに牛乳と生クリーム、クエン酸ソーダを入れて熱し、浮いてくるふわふわの上澄みをすくって布を敷いたステンレスのバットに丁寧に入れていきます。あらかた水分が抜けたところでパッケージングして熱処理をすることで賞味期限を3週間まで延ばすことができるようになったのです。原料乳にとことんこだわるチーニョ社のリコッタは、上品な甘みが長年支持されてきたことが実感いただけると思います。夏を迎えるこの季節に爽やかさをお楽しみください。